コ・デザイン デザインすることをみんなの手に

「コ・デザイン」
デザインすることをみんなの手に 上平崇仁著
この本でやっと自分の設計作業にフィットする言葉を見つけたと感じました
20年前からレフトハンズの看板に書いている「家をつくろう」という言葉は
家は住み手と共同でデザインされるべきだという信念から生まれました
設計するすべてのプロセスに住み手が参加するように心がけてきました
デザイナーにつくってもらう
デザイナー住宅を買うとは違う
家を設計・建設・住まうのプロセスを大切にする設計スタンス
「Co Design」は日本語で協同デザインという意味です

デザインのあり方について
本の表紙のゴミ箱を一例として紹介されています
デンマークのコペンハーゲンの街中にあるゴミ箱のイラストです
デンマークではゴミの分別が行われておらず、すべてのゴミが一緒に捨てられます
リサイクルを推進するために「パント」と呼ばれるデポジットの仕組みがあります
パントは購入時に1本あたり1クローナの余分な支払いをし、空き缶を返却するとその代金が戻ってくる仕組みです
ゴミを集めて換金する生活をする人が腕まくりしてゴミ箱をあさるのは人間としてはいかがなものかと感じたある若者が
ゴミ箱にちょっとした仕組みを施す提案をしました
ゴミ箱の脇に後後付けのような小さな棚がつけたのです
つまり不用意に捨てないための置き場づくりをして誰かへの小さな贈り物をしていることに
このデザインにより換金せざるを得ない人々が尊厳を保ちながら、まち全体でリサイクルが促進され、空き缶の廃棄が減少する成功例となったそうです
このエピソードは、デザインが形や色だけでなく、社会的な問題を解決する手段であることを示す例として書かれています

本のはじめにの文章に挿入されているエピソードから
「手作りのアップルジュース試飲できます」というキャッチコピーに惹かれ、著者が家族と一緒にそのブースで体験されたお話
リンゴを刻んで絞り、ジュースを作るプロセスが一連の流れで見えるようになっていて、参加者たちは自分でジュースを作り、その過程でコミュニケーションが生まれていたとのこと
このイベントは、コペンハーゲンで行われたカルチャーナイトの一環で、デンマークの社会性を反映しています
ジュースの生産装置は極めてこの国らしい仕組みに基づいていることがわかります
・貢献すれば誰もが親しく扱われる平等性
・物事が進んでいく因果関係を見えるようにする透明性
・見ず知らずの人でも協力し合う信頼性
・それを遊び心を持って仕組みが一緒に取り組めるようにする共同性
社会的な約束が経験的に学べる場があり、社会の中に溶け込んだデザインが人々の行動を形作ることを示すれいとしてあげられています

私は幼い頃から文字のフォントや包装紙の模様、ファッションに興味を持ってきました
デザインという言葉にはあこがれがあります
最近のデザインという言葉へのの安易な扱いには、少々嫌悪感を持ちます
安価なマーケティング手法としてのデザインは、その本来持つべき価値を失わせるものだと感じるからです
私が進んだ建築科で、デザインの本質について学ぶことができました
デザインは形や色だけでなく、使い手の生活や環境と深く結びついていることなどです
家を協同で設計し、住み続ける人がその空間を理解することで、社会空間全体のデザインに対する視点も養われていきます
家は単なる建物ではなく、そこで暮らす人々の生活やコミュニティを形作る大切な要素なのだから
ぜひ コ・デザイン をいろんな場所で
これからの日本の環境をデザインしていきましょう
2024/02/20
フィリップ・ジョンソン邸へ行こう

表紙買いした雑誌を 久々に手に取り読んでみました
写真の『ガラスの家』という住宅作品は
好きな住宅として学生の時にあげていたもの
* * *
この住宅は 設計者の週末の隠れ家であり
鉄とガラスでできた小屋である
内部に壁は存在せずガラスで作られた箱の中の空間は感覚的には一つの大きなホールである
私が気に入った1つ目の理由は
この大きなホールを家具やオブジェの配置によっていくつかの領域に自然に分かれていることである
無理やり用途によって細々と分けないところである
ジョンソンの言葉で言うなら
家具の配置で部屋や通路の役割を果たしている空間の領域やボリュームを自然と浮かび上がらせている点である
2つ目の理由は単純な構造ではあるけれど日本にもある箱物建築などと比べてどこか色気があるところである
装飾もたいして施されていないのにどことなく感じられる設計者の美的センスである
規則的な中に見てとれる何かである
ここでは屋根を突き抜けて 垂直に伸びる円形の塔がそう感じさせる一番のものである
日頃は装飾過剰な建物を見ることが多かったのでシンプルながらも内容のある住宅に魅了された
* * *
大学2年生の時の課題で私が写真と図面からの家の感想です

この雑誌のガイド役は建築家の中村好文先生
1974年に出版されたこの本で「ガラスの家」に出会ったそうです
「床から立ち上がった円筒は、その床に敷いてあるのと同じレンガからできていて、この家の主にモチーフとなっている。これはミースに由来するものではなく、私がかつて見た火事で焼かれて基礎とレンガの煙突だけ残った木造の農家のすがたから導き出されたからである。」
本のなかの説明に詩的なものを感じこころ揺さぶられたそうです
フィリップ・ジョンソン先生は莫大な財産を受け継いだ建築家でありながら
MoMA(ニューヨーク近代美術館)のキューレーターであり
抽象絵画のコレクターでした
建物だけをみて設計者のことまで気にせずにいた大学二年生の自分と
今の自分をつないでくれた大切な建物が『ガラスの家』
家具で仕切られた空間の作り方は日本のつい立てや床の高さで空間を分ける日本的な部分も感じられ
魅了された煙突の位置や形はモンドリアンなどの抽象絵画の画家の影響を受けていることも今ならわかります
さらに言えば、この家は広大な敷地に建つ9個の建物の一つに過ぎないということ
機能は部屋ごとでなく建物ごとに分けてあることにおどろき
そのことを気にもしてなかった自分におどろきました
ガイドの中村好文先生の文章で案内されるそれぞれの建物
意味があり実験をしている過程のすべてが人生
ガラスの家で息をひきとったフィリップ・ジョンソン
建築家の生涯かたる素敵な作品「ガラスの家」とともに天国へ
なんて詩的な締めくくりだろう
読みごたえのある雑誌です
ぜひ一読あれ
私は「ガラスの家」を見にいつかアメリカに行くことに決めました
2024/02/01
むらの原理と都市の原理 自立と分業のはざまで

年末、本棚の整理をしていたとき、久々に手にした本。
なんとなく読み始めると
設計の仕事や麦づくりの中で日々考えていた
もやもやとした境界線がスッキリしました
「むらの原理」と「都市の原理」を知ることで
今住んでいる環境をどちらの物差しでも見ることができ
より理解が深まる気がします
「むらは扶助と義務とで成り立つ自立の社会であり、都市は権利と管理で成り立つ分業の社会」
私は広島市郊外の昭和40年代に造成された住宅団地で育ち
都市で暮らすための教育を受けてきました。
戦後、むらから人を吸収して都市は広がり
そのルールのもとでむらについても考える時代が続いてきたのでしょう
むらと都市の違い
むらでは、
山の木で火を焚き、
自然から水を得て、
田畑で野菜や米を作ることで、
一戸の家が自立できます
都市では、
分業をこなし、
給料を得て、
すべてをお金で購入する。
つまり、すべてに価格がついています
最近、設計で関わった広島市近郊の農家は「むらの原理」で成り立っています
自立するための設備を備えながら、都市の原理で生活することもできます
私が伴東で耕作している麦畑の周辺では
都市化によって地力のある土地が「地辺」となり、売り出されていきます
こうなると、自立する家をつくることは難しくなってしまいます
むらと都市をつなぐ未来
最近TVで「農家をシェアハウスにして、都市から少し逃げ出したい若者たちが集まっている」様子を見ました
彼らがそこで「むらの原理」を知ることで
一人の人間の自立に必要なことを学び
むらでも都市でも生きる場所を見つけられるのではないでしょうか
人が自然と共生しながら、むらと都市の両方を理解し、それぞれを成立させる
そんな未来が、今求められているのかもしれません。
最後に、ふと気になること
町内会という存在
町内会は、都市の中に「むら的な扶助」の考えを残したものですが
今の時代には少しなじみにくいかもしれません
名前や働きをもう少し都市の暮らしに合う形に変えていったほうがよいのではないでしょうか?
みなさんは、どう思いますか?
2022/01/18
「暮らしが買えると思うなよ」みんなでつくる中国山地

「暮らしが買えると思うなよ」みんなでつくる中国山地
002 暮らし(100年出版する予定の2年目の本)定価 2,640円
表紙に書かれた言葉を読むだけで
編集者の熱意が伝わってくる。
ここ数年、設計士の仕事として古民家の改装に携わり、
畑で麦をつくり、山で木を切る
そうした体験を通じて、この本に書かれている内容を肌で感じてきた
体感できない方は、ぜひこの本を読んでみてほしい
中国山地には、今も豊かな暮らしが残っている
それに気づけば、次の世代へとつなげることができるのではないか
街と山が近いのも、中国地方ならではの良さ
どちらの生活も享受できる
これほど贅沢な時代に生きていることに気づくと、視点が変わる
この本が指摘するように、住宅相談会に行けば
お金のこと、メーカーのことは教えてもらえる
でも「暮らし」について教えてくれる人は少ない
家は手に入る
だけど、暮らしは自分たちでつくるもの
それも時間をかけて
そのはじまりのお手伝いを、レフトハンズはしています。
2021/12/09
corippo<時間を忘れた村> 石でできた村

ノルウェーのユースホステルで知り合った
マーガレットの先祖が住んでいた村、コリッポ
スイス・コリッポを訪ねたときの光景は今でも強烈に記憶に残っています
バスを降りる場所をひとつ間違えてしまい
山道を歩いて村に向かう途中で目にした、石と自然が織りなす造形
ようやく到着したコリッポの村は、ほぼすべてが石でできていました
まるで家が土地から生えてきたかのように
それは「近くにあるもので環境をつくる」という建築の原点を体感する瞬間でした
最近では、木を使うことや木の良さを説明しなければならない場面が増えていますが、
そもそも、近くのもので自分たちの環境をつくることに反対する人がいるのでしょうか?
そんなコリッポの写真集です
2021/12/01
呼吸(いき)する環境 心地よさの理由を知る

「この空間がなぜか落ち着く」
「この空間が好きだ」
「この空間が快適だ」
そう感じたとき、その理由を考えたことはありますか?
『呼吸(いき)する環境』は、私たちが無意識に感じている心地よさの正体を解き明かしてくれる本です
自分を取り巻く環境をどのように見るのか、その視点を与えてくれます
そして、身近な環境を理解し、少しずつ変えていくことで
その影響はやがて街や国にまで広がっていくかもしれません
2021/11/11
スロー・イズ・ビューティフル ゆっくり育む美しさ
『スローイズビューティフル』 著 辻信一
この本に出てくる「スロー」という言葉は
エコロジカルやサステナブルといった概念を、詩的でわかりやすい表現にしたもの
2001年の発刊当初に読んだときは頭で理解するだけでしたが
最近の山作業や畑作業、建築設計の仕事を通じて、その意味を少しずつ体感するようになっています
畑を手作業ですることの美しさ
効率化とは違う方向で、何かを成長させることの喜び
「成長を急ぐ時代」はすっかり終わり
「ゆったり何をしようか」と考える時代
そんなことを思っている方に、この本をおすすめしたいです

2021/11/10
アルヴァ・アアルトの住宅 時を超える建築の魅力

アルヴァ・アアルトの住宅を収めた写真集を手に取りました
この本の序文には、こんな言葉が書かれています
「時代の移りかわりほどに人間は変化できないものである。人間の感性に語りかける空間も、実はそれほどかわらないものであろう」
「人間が中心であるべき建築」を唱えてきたアアルトの建築は
それゆえ時を超えて「永遠なるもの」とよぶことができる作品です
100年前につくられた空間が
今もなお魅力的であり
これから先の100年も人々に愛され続ける
そこに住む人の暮らしが思い描ける建築
この写真集に収められたアアルトの住宅を眺めながら
そんな「変わらないもの」について考えてみるのも良いかもしれません
2021/05/22
『女ひとり、家を建てる』を読んで—自分の栖をつくる楽しさ

ツレヅレハナコさんの『女ひとり、家を建てる』
久々に訪れた本屋で手に取った一冊
『食べること・飲むこと』が好きな友人たちがインスタでフォローしていたことで
お名前は以前から知っていました
設計者として家づくりに携わっている私ですが、施主側の視点をもっと知りたいと思い、読み始めました
「この世にこれほど楽しいことがあったのか」
この言葉に、私も深く共感します。
自分らしく生きるために、自分の栖をつくる。
「買いたい」ではなく「作りたい」と考えている方には、ぜひ読んでほしい本です
家は、ひとりで建てることもできるし、家族と建てるのもいい
友達と集まって建ててもいいし、趣味でつながる人たちと共有する空間をつくるのも面白い
家のあり方も、暮らしのかたちも、もっと自由であっていい
私自身、女友達とともに家を建てました
そして、それからの生き方に、この家とこの場所は大きく影響を与え続けています
自分の「つくりたい」を支えてくれる
設計者や工務店に出会うことが、家づくりの鍵となります
言葉が通じる人を探すために、まずはいろんな人に話をしてみてください
これからの生き方と家をどう考えていくのか
レフトハンズも、そのお手伝いをさせていただきます
2021/02/05
『宮脇檀の住宅設計テキスト』を読む—ルールと間取りの楽しさ

『宮脇檀の住宅設計テキスト』
他の設計者の描いた家の図面を見る機会があり
設計者としての自分の家づくりに「くせ」や「ルール」があることに気づきました
設計には個々のこだわりが反映されるものですが
それがどのように形成されているのかを改めて考えさせられます
この本は設計者が長年にわたり多数の住宅を手がけてきたからこそ生まれた
大切なルールを写真や図面とともに紹介してくれる一冊です
数多くの間取りが掲載されているのでそれらを見ているだけでも楽しめます
設計の基本を学びながら、新たな発想を得られる本です
2021/01/26
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