【独立宣言】家に所属する個人という選択

交際20周年を迎えた記念日に、私たちは一つの節目を迎えました
長年続けてきた事実婚の関係に終止符を打ち「家に所属する個人」として
それぞれの人生を再び自由に歩みはじめることにしたのです
共に暮らしてきた家を舞台に、これからはそれぞれが自立した存在として、人生を再構築していきます
思い返せば、20代の私は「一人でいること」が自然で、自由に生きていました
28歳の時に旅したスペイン北部で、隣の席の見知らぬ人のやさしさに触れて、不意に涙がこぼれたあの日
私は「人と深く関わること」の意味を知りました
それは言葉の壁を越えた、心と心の接触でした
その瞬間から、私は人と向き合う人生を歩み始めたのです
帰国後、29歳で設計事務所を開業し、「美しい生活とは何か」を模索する中で、パートナーと出会いました
3年後、土地を購入し、住宅兼事務所を建てました
「二人の美しい暮らしができる家を持とう」「自分たちでつくることにこだわろう」
そうした思いで家づくりにチャレンジしました
同性カップルとして住宅資金などの壁を越えながら家族の理解を得て、ひとつの暮らしを築くことができました
けれど年月と共に生活は変化します、二人の理想が少しずつずれていくことを感じていました
家計をひとつにすることもしましたが、その中で、互いが互いを抑えるような不自由さが生まれていきました
まわりからは「理想的な関係」に見えても、内側では自分たちらしさが薄れていく違和感を抱えていたのです
そして、20年目の節目に話し合いを重ね、「独立」という選択にたどりつきました
私は自分のパーソナリティであるセクシャリティのことを語らずにきました
今回の決断を社会の中で共有するのは、ただ個人の話ではなく
「家とはなにか」「パートナーシップとはなにか」を考えるための小さな問いかけでもあります
家はふたりの時間を包み込んでいました、良い時も悪い時も
だけどその家にパートナシップにしばられることで、自分らしさを失ってしまっては本末転倒です
だからこそ、今、私たちはそれぞれの「社会と自由に響き合える個人」の再生を願って
再び一人の個人として歩き出すことにしました
どこででも、誰にとっても、多様性の時代でも「美しい暮らし」とは
自分の心と身体と魂が、のびのびと存在できる場所からはじまるはずです
社会がつくる制度や建物が、人を縛るものではなく、自由を育む場所であるように
これからも、家やそれをつつむまちや環境をつくること、設計という仕事を通して
人と空間との関係を問い続けていきたいと思います
ライター はく