熊本での学生時代:黒川温泉郷とアートポリスから
私は熊本県で大学生活を送り、建築の勉強を始めました
ちょうどその頃、熊本では細川護煕県知事が「アートポリス構想」を立ち上げた時代
有名な建築家が続々と熊本に招かれ、公共建築が次々と建設されていました
さらに、講演会や見学会が頻繁に行われ、建築を学ぶ学生にとっては刺激的な環境でした
その一方で、黒川温泉郷でも大きな動きがありました
入湯手形が発行され、単なる緑化にとどまらず、街並み全体の整備が進められ始めた時期です
黒川温泉の景観づくりの象徴ともいえる旅館組合事務所「風の舎」
その設計を手がけたのは、私が通っていた大学の住宅研究会を主宰していた内山先生でした
この建物は、温泉郷の雰囲気に溶け込みながらも、新しい景観のリーダーとなるような存在感を持っていました。
当時まだ木造建築への興味がわかず「風の舎」の設計や図面を書くお手伝いをすることはありませんでした
それでも大学時代に夜な夜な研究室で過ごし、仲間たちと建築を語り合った時間が、私の建築の原点を形作るものになっています。
数年前、アートポリス30周年のシンポジウムが開催されると聞き、熊本に足を運びました
そして久しぶりに黒川温泉郷を訪れました
温泉街の風景、坂道を上りながら目にする雑木や緑、そして建物のシークエンス
それらが一つの物語のように繋がり、温泉街全体が持つ独特の雰囲気をつくり上げていました
黒川温泉郷を再訪した私にとって、大きな衝撃だったのは
「風の舎」を含めた建物が温泉街の風景にしっくりと馴染んでいたことでした
それは単なる景観デザインではなく、雑木や緑、坂道が持つ自然の流れと建築が調和した結果生まれるもの
そしてそれは、何十年という時間をかけてうまれるデザインの美しさだと気づきました
木材に関心を持ち始めてから見る「風の舎」は、学生時代とはまったく違う印象を与えました。
先生たちは、温泉街の持つ雰囲気や時間の流れを見越しながら
そこに馴染むものをデザインしていたのだと感じます
自然と共生し、風景に溶け込む建築の力。その凄さを改めて実感した瞬間でした
歩くことの楽しさがある街はやはりいいな
周辺環境へのアプローチになる仕掛けも所々にもうけられ
ウォーキングフットパスとしてコースも設定されています
そぞろ歩きをしたあとでゆくっり温泉びつかる
また行きたい場所です
『黒川温泉の風景づくり』の取り組みは
2009年土木学会デザイン賞優秀賞を受賞
取り組みの全容は雑誌BIOcity2010年no.45号に載ってます